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胎膜水腫?

仕方がなかったでいいのかな・・・。

 

ご批判も覚悟で、正直に書いてみる。

 

8月下旬に妊娠している牛のお腹が大きく、少し乳房も張ってきたので見て欲しいと連絡があった。

聞けば、この牛はH29.11.2に人工授精しているが、H30.1.12にも授精しているらしい。

牛の妊娠期間は285日くらいなので、もしH29.11.2に妊娠していたとすると、出産予定日はH30.8.14くらいになる。H30.1.12で妊娠していたとすると予定日はH30.10.24くらいだ。

 

つまり、初診の段階では前の授精で妊娠していれば予定日を過ぎているし、後の授精で妊娠していればかなり早い状態だった。

 

直腸検査にて内診してみるが、子宮が著しく拡張していて胎子には全く触れない。

確かに母牛のお腹はかなり張り出していて、お産直前というより異常と感じるほどだった。

そして、やや乳房が張っている。

 

しかし、妊娠72日の牛に間違って人工授精する可能性も少ないだろうとおもって、治療歴を調べてみた。

そうしたら、H30.1.9に卵巣静止の治療でPMSGを投与していた。

それなら、やはり正しい授精月日はH30.1.12ということか・・・。

ひょっとして多胎?

 

仮に双子だとしてもこのお腹の張りは異常だ。

母牛はまだ餌は食べているけど、10月下旬まで待ったらどうなるんだろうと不安になった。

 

病名は”胎膜水腫”を疑った。

胎膜水腫とは、胎子が腎機能の異常により多尿となり、過剰な胎水(一次破水で出てくるサラサラとした胎水の方→つまりは胎子のおしっこ)が子宮内に貯留し、母牛は著しく腹囲が膨満する。放っておくと母牛の命も危険となるため、結果的に人工流産が必要となる。妊娠後期で発生しその発生率は0.013%とか・・・。稀なんである。

 

もう10年くらい前に、同じく胎膜水腫を疑って、人工流産しようか迷った症例がいた。

食欲が落ちたらいよいよやるか・・と思っていたら、いきなりその牛が死にそうだと連絡を受けた。

急行したが母牛は呼吸困難で虫の息。腹囲は著しく膨満。慌てて局麻をし、横倒状態で牛のお腹を切開したら。ドバーッと浴槽に溜まるくらい多量の腹水が出てきた。とはいえ、目立った癒着とか腹膜炎が酷い状態ではなかった。残念ながらその牛は間もなく亡くなった。

元気もあったのでまさか腹水だったとは・・・。胎膜水腫と思い込んでしまった自分を悔いた。

 

 

今回はミスをしまいと、超音波検査と血液検査で腹水でないことは確認した。

 

幸い食欲はあったので2週間ちょっと経過を見ながら観察し、畜主さんと相談を続けた。

双子にしてもあまりにお腹が大きい。このまま放っておくといつか母牛がダメになるかもしれないね。

 

そんなやりとりをして、ついに、畜主さんが”人工流産”を決断した。

 

腹囲はさらに膨満していた。逆に乳房の張りはなくなった。

↑こんな大きいお腹で予定日より一ヶ月半も早い。

 

 

H30.9.11 10:00 文献でデキサは使わないほうが良いというのもあったので、PG(ジノプロスト)5mlのみ投与。

 

H30.9.13 15:00 子宮頸管は1指幅しか開かず、ほとんど効果がない。PG5ml+デキサ10mlを再投与。

 

H30.9.14 18:00 子宮頸管は1.5指幅くらい開いたが、予想より開かない。 ホーリン4ml投与。

 

H30.9.15~

 

12:45 畜主から破水が始まったと連絡あり。

 

14:00 畜主からびっくりするくらい多量の破水があったと連絡あり。

 

15:00 殆ど胎水がでなくなったとのこと。

 

15:20 往診すると、既に二次破水も終わっていたので引き出す。

 

 

動きは鈍いがなんとか自発呼吸をした。・・小さい。:1頭目、雌

内診するともう一匹いたので引き出す。こちらの方は比較的元気で呼吸もした。:2頭目、雄

確認でもう一回手を入れると、なんともう一匹いた。・・・えっ、三つ子!:3頭目、雌

 

最後の胎子は発毛がなく、明らかに異常(死亡胎子)であった。もしかすると、この子が原因胎子だったのか?

 

↑結果的には三つ子という結末。

 

 

出産翌日の母牛はこのようにお腹はスッキリ。数日経つともっとペッタンコになった。

 

 

 

しかし、畜主さんには事前に予告していたが、9/17の朝には1頭目の雌が、そしてそれを追うように容態が急変して9/19の朝には2頭目の雄が亡くなった。懸命に治療や保温をしたがダメだった。

未熟で体温を維持できないようだった。

 

考えてしまうのだが、

この症例は3つ子でお腹が大きいだけだったのか、まさか3つ子は予想外だったが、1ヶ月半前にこんなにも大きくなるのはちょっと経験がない。

 

それとも、最初の見立てどおり胎膜水腫だったのか・・・。

 

 

覚悟はしていたが、やはり子牛が助からなかっただけに頭から離れない。

その後、母牛は元気に回復し、畜主さんは”ありがとう”と言ってくれた。

 

もう少し待てば良かったのかな・・色々と考えてしまうのである。

 

 

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