NOSAI長崎|長崎県農業共済組合連合会

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農家相談と餌の話

最近、当診療所にも獣医大学生が研修に来てくれました。

その際に、学生さんから「餌について話を聞きたい」という要望を受けましたので、一緒に農家さんを回りながら話をさせてもらいました。

実際に、学生さんと話をしながら感じることは「どこから話をすればよいのやら・・」というのが素直な感想でした。

そもそも餌そのものの話をする前に、知っててもらわなければいけないことが多すぎて。

牛舎の話をすべきか、ルーメンの話をすべきか、餌の単味の特徴の話をすべきか・・・。

結局のところ、色々な牛舎を回りながら2~3時間一緒に話をしましたが、全く伝えきれた感がありませんでした。

前のブログで、他の先生が「餌の本を100冊読んでから来なさい」と言ってたのが何となく分かる気もします(といっても自分はその先生の足元にも及ばないので、基本的な話しかできませんが)。

ちなみに自分は「デイリージャパン」という雑誌から入り、餌の本を読みすすめていき、最近は生化学の教科書を開くようになりました。

学生時代はあんなに嫌いだった生化学が面白いと感じる日が来るとは不思議なものです。

 

以前、北海道の帯広大学における餌のセミナーに参加させて頂いたことがあるのですが、セミナー参加前にまず予習として勉強しなさいと数十ページにも及ぶ大量のPDFが送られてきます(笑)。

大学の先生からしてみれば、この辺理解してないと話が始まらないんだろうなあとしみじみ実感しました。

 

ということで、餌を踏まえた農家相談についての話などをしていきたいと思います。

餌の前段階として、まず対象となる農家が酪農家なのか繁殖農家、肥育農家なのかで、餌のあげ方や中身など話が大きく変わってきます。

次に牛舎の構造が、つなぎ牛舎なのかフリーバーン・フリーストールなのかで扱いが変わります。

さらには、餌のあげ方が分離給与なのか、TMR(コンプリート)なのかでも変わってきます。

他にもスタンチョンやセミコンも混ざってきて、さらにさらには、住んでいる地域も考慮しなければなりません。

地域って何さ?と思う人もいるかもしれません。

これは、私たちの長崎県と北海道では立地条件が違いすぎるという話です。

暑さもありますが、餌を作る面積も大きく変わってきます。

例えば、牛乳の総生産量トップの国はアメリカです。

しかしながら1頭あたりの平均乳量が世界一の国はイスラエルです。

広大な敷地面積を持ち牧草地・放牧地も恵まれているアメリカが総生産量トップは分かりますが、イスラエルはどうでしょうか?

イスラエルの敷地面積は四国程度で、中東であるために水の確保も大変です。

このイスラエルがアメリカと同じように豊富な牧草地を用意できると思いますか?

そのような条件下でも1頭あたりの平均乳量の世界一はイスラエルなんです。

このように地域によって餌に対する考え方も当然変わってきます。

 

さて、専門用語の説明に関しては基本的なものなので省略して、牛舎構造等に関する簡単な例を挙げてみます。

 

フリーバーン牛舎でTMR給与の酪農家さんにて、ある牛群に1頭痩せている牛がいたとします。

この牛が病気でないと判断したとして「この牛は痩せているので、餌の量を増やすべきだ」と話すべきでしょうか?

 

当然ですが、これでは情報が足りません。

痩せているってBCSは?RMFIは?その牛がいつからその牛群に入ったのか?産子数は?分娩後日数(泌乳ステージ)はどの辺なのか?乳量に対して採食量は追いついているのか?乾乳の状態はどうだったのか?乳成分を調べているのであれば具体的な乳量と乳脂肪・乳蛋白も考慮して…etc…を踏まえて話をしなければなりません。

そもそもフリーバーン牛舎では個体管理が困難ですので、1頭だけ別飼いが可能か?可能だとして労働力に見合うのか?というのも考慮しなければなりません。

まあ、群で1頭だけ痩せているというのも極端な例なのですが。

 

これが、つなぎ牛舎で分離給与だとしたらどうでしょうか?当然先ほどの情報は踏まえた上で。

一般的に搾乳牛において、体脂肪の増体は体重×0.052%(約0.33㎏/Day)=3日で1kgの増体が可能と言われていますので、泌乳ステージや現在の給餌量・乳量・乳成分・便性状を考慮すればBCS増加のために「この牛は痩せているので、餌の量を増やすべきだ」というのも、個体管理が容易なつなぎ牛舎においては間違ったアドバイスではないかもしれません。

 

さらに言えば「餌の量を増やすべきだ」は危険な発言でもあります。

「夕方の給餌時に濃厚飼料(商品名)を1㎏増やすべきだ」というふうに具他的に話さなければなりません。

何故なら、酪農家さんにおいてはあまり間違いはおきませんが、繁殖農家などで「牛が痩せているので、濃厚飼料を増やすべきだ」などと言うと、1回の濃厚飼料の量を5㎏も6㎏も増やして粗濃比の逆転現象を起こすこともありますし、酷いときは急性鼓脹症でぽっくり逝ったりします。

 

他にも経験談として、ある繁殖農家の育成牛の発育が不十分な牛を見て「もっと餌をやりなさい」と指導する人もいました。

しかしながら自分が見る限り、餌槽を見ると粗飼料は残っているし、濃厚飼料の給与量も問題ありません。

結局のところ、餌槽の高さや、密飼い、給水環境、粗飼料の切断長や品質、暑熱、もっと言えば病気の可能性に触れず、「餌を増やして太らせる」という短絡的な指導で終わっていました。こういう指導を受けている農家さんを見ると切なくなります。といっても自分は、人が指導している分には横から口は出しませんが・・・。

 

このように餌は勉強しようと知ると先が長く、自分自身も先輩方と話して勉強不足を日々思い知らされます。

さらには下手な相談の乗り方をすると、農家さんへの大きな損失につながります。

ですが、自分が相談に乗る農家さんが少しずつ変わってくる姿は、とても楽しいものですし、やりがいを感じます。もっと言えば獣医の仕事も減ります(笑)。

 

話が長くなりましたので、今回はこの辺で。

また機会があれば、牛舎環境・飼養形態のメリット・デメリットの考察と、農家相談の体験談を話していきたいと思います。

 

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