お知らせ
CBC検査で第四胃潰瘍を疑う?
先週の5日間、学生さんが実習に来られた。
臨床を志す学生の方は、特に5~6年生にもなると、大学に搬入される難しい症例を見慣れているのもあってなかなか目の付け所が鋭い。とても頼もしい。将来の産業動物臨床は任せたよ!
もちろん4年生以下の学生実習も大歓迎。誰にも影響されず、自分のためだけにじっくりと将来を選べるなんて、学生時代くらいなもんだ。まぁ、そんなことおじさんから言われなくたって、就職説明会にいくと今時の学生さんはちゃんと分かってるなと感じる。売り手市場だといっても、ピッタリの就職先を探そうと学生たちの眼差しは真剣だ。自分達の時代はどうだったっけ。
夏季実習も今年はおかげさまで既に満員御礼であるが、来年の夏は長崎で、楽しいけど真剣な”現場”を体験してみませんか?
暑いけど・・ね。
さて、本題。
臨床を20年もやってると、つい細かい検査はすっ飛ばして、経験と勘で先に進めてしまう。
そうすることは診療のスピードを上げるために必要でもある。
若い頃は初診で診断を下せないときは、時間はかかっても検査をしようと考えていた。
そうやって面倒な検査と答え合わせを積み重ねていくと、似たような症例に出会ったとき何かがひらめいて、ごく簡単な検査と観察だけ、もしくは観察力だけで、正解にたどり着けるようにもなる。
みんなそうやって、ベテランになっていくんだろうね。
CBC検査 complete blood count(血液一般検査というときもある)は、動物用の自動血球計数装置が必要で当診療所でも検査できるように備えている。ちなみに血液生化学検査も自前でできるが、特殊な検査項目は外注となり、結果が判明するのは翌日になる。
血液の病気とかでなければ、CBC検査だけではなかなか病名が出てこない。でも、実は個人的にちょっと気になっているパターンがある。
生後数ヶ月以内に多く発生する子牛の胃潰瘍は、人間と同じようにストレスなど様々な原因によっても生じるし、消炎鎮痛剤(NSAIDs 単独やステロイド剤との併用)投与後の副作用で生じる場合もある。消炎鎮痛剤については、動物薬で副作用がより少ない製剤も発売されてはいる。
例えば、2ヶ月くらいの子牛で、体温は高低様々、好臥、心拍数増加、沈鬱、水様性下痢はなし、腹部膨満などの症状があって、CBC検査で白血球数増加、赤血球数増加、ヘマトクリット値上昇傾向、血小板数増加などがあると、穿孔性の胃潰瘍を疑ってしまう。
具体例を挙げれば以下の3症例など。
赤は高値
黄色はやや高めの値
青色はやや低めの値を示している。
症例1と症例2は死後の解剖で、穿孔性の胃潰瘍と四胃内容物の腹腔への漏出を確認している。
胃内容物が漏出して腹膜炎や敗血症を生じたならば、ふつう血小板は減少すると思うので、なぜこれほどまで高くなるのか、よく分からない。(症例1の血小板数は **** だが、これは”異常に高い”と判断した)
考えられるのは感染や出血、体液移動による一時的な状況、もしくは自動血球計算の影響とか?
もし生きながらえて経過すれば血小板は低下するのかもしれないが、こういった症例は翌日までに死亡する。
穿孔性の胃潰瘍だと、やはり白血球数は上昇傾向にある。
この症例で穿孔性胃潰瘍と治療薬との関連があったのかは不明だが、治療に必要な薬は使わざるを得ないこともある。最近はステロイド剤単独では胃潰瘍のリスクは低いと考えられているようだ。
症例3は以前にブログで紹介した症例だ。
ヘマトクリット値がやや低めに出て、血小板数の上昇も比較的軽度であり、CBC検査ではないけれどすぐに調べられるBUNが若干上昇していることや症状を観察して、出血性胃潰瘍もしくは小さな穿孔性胃潰瘍に継発する限局性腹膜炎だと考えた。実際、輸血や胃潰瘍の薬を続けた結果、元気に回復した。
外注の特殊な生化学検査ができなくても、症状で推察し、すぐできるCBC検査や他の検査で”胃潰瘍”を含め絞り込んでいく。
そうでなくては、重症の穿孔性胃潰瘍なら翌日までもたない。ただ、手術に踏みきるなら、術後管理を含めてちゃんとやらなくては。
色々と課題もある。
症例2はつい先日に遭遇した症例だ。
早朝に急患で呼ばれ、経過を聞き症状と血液検査を見て、正直にいうと”手遅れ”だろうと思った。
残念ながら翌朝に死亡した。
症例2の写真
↑第四胃の内側の潰瘍。
↑同じ潰瘍部を第四胃の外側からみる。
外側まで貫通し、腹膜炎が生じている。
前日まで大丈夫だった子牛が、突然悪くなるから農家さんにとっても辛い。
症例3のように早く気づいて対処すれば、治るのだが・・タイミングよく見つかるかな?
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